Bryn Terfel

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イギリスのバス・バリトン歌手で、1965年北ウェールズ生まれ。少年時代は父が羊や牛を飼育する農場を手伝いながら成長し、その後ロンドンのギルドホール音楽演劇学校で学ぶ。89年にはカーディフで開催されたBBCカーディフ・シンガー・オブ・ザ・ワールドで入賞する。このとき同じバス・バリトンで優勝をかけて競い合ったのが、ロシア出身で3歳ほど年上のディミトリー・ホロストフスキーだった。ホロストフスキーは美しい声と気品のある表現、プラチナ・ブロンドの髪と端整な顔立ちで世界の檜舞台に羽ばたいたが、ブリン・ターフェルはコミカルな役柄から野性味あふれる表現や威厳のある役柄までをこなし、圧倒的な存在感をオペラの舞台上で示してきた。登場人物の性格を的確にとらえて振る舞う多彩な演技力と、強靱で深々とした低音、その包容力のある分厚い声で音楽ファンを魅了し、オペラ界のスーパースターの地位を築き上げる。
 プロのオペラ歌手としてのデビューは、90年ウェールズ・ナショナル・オペラでのモーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」のグリエルモ役。91年にはイングリッシュ・ナショナル・オペラでモーツァルト「フィガロの結婚」のフィガロを歌っている。以後フィガロは彼の当たり役になり、同年のサンタフェ・オペラでも演じ、アメリカへのデビューを果たす。またベルギー・ブリュッセルのモネ劇場には「魔笛」の弁者役で登場している。92年には、モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」のマゼット役でロイヤル・オペラにデビューし、ザルツブルク音楽祭ではリヒャルト・シュトラウス「サロメ」のヨカナーン役で迫真の歌と演技を披露して脚光を浴び、国際的な舞台への道が拓かれる。
 彼のレパートリーはきわめて広く、「ドン・ジョヴァンニ」ではタイトルロールとレポレッロを得意にしており、ほかにもグノー「ファウスト」のメフィストフェレス、ヴェルディ「トスカ」のスカルピア、ストラヴィンスキー「放蕩児の遍歴」のニック・シャドウ、ムソルグスキー「ボリス・ゴドゥノフ」のボリス・ゴドゥノフなど、キャラクター性の強い役柄でも定評がある。その一方で、ヴェルディ「ファルスタッフ」やプッチーニ「ジャンニ・スキッキ」などでも、コミカルな演技や語り口で主人公の心理を巧みに描き出す。ブリテン「ピーター・グライムズ」のボルストロードやワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」でのハンス・ザックスなどでの重厚で温かみのある歌唱も高く評価されている。
 いまやイギリスはもちろんヨーロッパやアメリカの名だたる歌劇場から引っ張りだこ。世界最高峰のひとつ、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場(MET)でも活躍していて、2010年~2012年に制作されたMETライブビューイングのワーグナー「ニーベルングの指環」にもヴォータン役で出演。シルク・ドゥ・ソレイユの演出で知られるロベール・ルパージュによる新演出の舞台はBlu-rayやDVDで鑑賞でき、全4夜の聴きどころを収録した『トワイライト・オブ・ザ・ゴッズ~ワーグナー・リング・ハイライト』はCDやネット配信でも聴くことができる。
 CD録音にも90年代半ばから数多く参加している。クラウディオ・アバドの指揮で録音した97年録音の「ドン・ジョヴァンニ」ではレポレッロを歌い、重々しさや濃密さといったイメージを払拭する軽快で若々しい演奏で、また2001年録音のアバド指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との「ファルスタッフ」でも、オーケストラと名歌手たちが繰り広げる心地よく完成度の高い音楽で注目された。
 コンサートでは2011年、世界的なテノール歌手アンドレア・ボチェッリのライヴに、クリス・ボッティやセリーヌ・ディオンら豪華アーティストとともに出演。ニューヨークのセントラル・パークに6万人の聴衆が集まった大規模な野外コンサートの模様は『奇蹟のコンサート~セントラルパークLIVE 』としてアルバム化されている。
 ソロ・アルバムではオペラのアリア、歌曲だけでなくミュージカル・ナンバーやウェールズの歌などジャンルを超えたアルバムを録音しており、2018年にロンドンで収録した『ドリームス・アンド・ソングス』は「アメイジング・グレイス」やミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』などターフェルお気に入りの曲を集めたアルバムだ。
 故郷ウェールズへの想いも深く、炭鉱の町として知られるウェールズのアバファンで66年に起こった悲惨な事故によって犠牲になった子どもたちのために、ウェールズ出身のカール・ジェンキンスが作曲した「カンタータ・メモリア」で、平和への祈りを感動的に歌っている。
 2015年にロンドンの名誉市民、2017年には音楽への貢献に対してナイトの爵位が与えられた。